現役金融マンM氏の金融・投資本研究

投資に関する情報・書籍の感想を発信しています。投資に関する書籍は著者によってスタイルは様々です、私のブログがきっかけで本を読み、独自の投資スタイルを学ぶきっかけになればと思い始めました。

日々の投資手法研究61 #ハイブリッド債 #武田薬品 #シャイアー #実はハイイールド #格付

(ポジション)投資家、高利回りに殺到 武田ハイブリッド債5000億円 :日本経済新聞

当初金利1.72% 半額資本に :日本経済新聞

記事のポイント

 

武田薬品がハイブリッド債券を5000億円発行する

金利は当初5年4か月は国債金利を1.7%上回る1.72%で決定、その後変動金利の仕組み

③投資家の需要が非常に強い、背景には低金利下で利回りを渇望する投資家が非常に多いため

④格付は日本格付研究所(JCR)でシングルAマイナスを取得

⑤発行額の半分を自己資本とする認定を格付機関から受けている

 

ハイブリッド債券とは?

ハイブリッド債券とは債務でありながら一定比率を格付機関が自己資本であると認める形式の半分自己資本、半分債務の債券のことです。

なのでハイブリッドです。

今回の発行条件と債券の仕組み

今回の武田薬品の発行条件は満期は60年です。

会社が投資家にお金を60年の満期を待たずに返済してもよい期間が5年4か月後からスタートする設定にしています。

この満期前の償還を金融業界ではコールと呼んでおり、最初に到来した期限のコール日を初回コール日と呼んでいます。

現在まではこの初回コール日で償還されることが大半ですので事実上の満期として取り扱ってます。ただ、あくまで目安であり、必ずということではないです。

投資するメリットと発行体のメリット

投資家から

満期は60年であり、受け取れるクーポン(金利)収入は1.72%

場合によっては5年4か月で償還となる可能性が高いので

円建てでの運用としてはとても魅力的に映ります。

仮に結果として5年4か月で償還(可能性高い)すれば5年程度で1.7%を超える円建て商品となるので今の日本の低金利下ではとても高いです。

発行体から

武田薬品から見ても、債務として発行するのですが、JCRが半分の2500億円を自己資本として計算してくれるので武田薬品からすればわざわざ株を発行して調達する自己資本よりも遥かに楽に自己資本が調達できるメリットがあります。

同じ5000億円を借りるのに銀行借り入れや通常の債券発行だと全額債務になるので格付が下がるリスクもありますが、ハイブリッド債券だと半分自己資本となるので会社の財務内容が帳簿上悪くならないので格付が下がらないことになります。

コールの取り扱い

なぜ5年4か月で償還の可能性が高いかというと初回コール日を過ぎると自己資本としてカウントされる比率が下がるからです。

JCRはコール日以降は25%分しか自己資本に認めなくなります。

(今回の格付けに入ってませんがスタンダード&プアーズはコール後の自己資本算入比率は0%です)

そうなると、武田薬品としては5000億円が当初2500億円自己資本、2500億円債務となっていたのが、1000億円自己資本、4000億円債務となる扱いに変わるためバランスシートの見栄えが悪くなります。

よって新たに別にハイブリッド債券を発行して既存の債券は償還して投資家に返金し、新しいハイブリッド債券を購入してもらったほうが良いことになり、各企業同様の行動に出ることが多いです。

ただ、コールによる償還はあくまで発行体の武田薬品の権限であり、もし、コールをかけなかったら続くことには注意が必要です。

格付と金利

格付についてですが、ハイブリッド債は半分が自己資本になる計算を行う性格上格付けは本来ある企業の格付よりも下で発行されます。

また、企業が倒産した際の弁済順位も大まかにいうと株式の少し上に位置づけされており、倒産した際の弁済順位は低いです。

武田薬品のホームページだと現在日本格付研究所(JCR)は会社に対してはシングルAプラスの格付けを与えており、今回のハイブリッド債はシングルAマイナスなので2段階引き下げた水準での発行となります。

注意点およびリスクについて

格付に関しての注意点ですが、各付を付与する機関は世界に複数あり、企業は発行の際に格付を付与してくれる機関を選べます。付けなくても発行できます。

武田薬品のホームページによると武田薬品の会社そのものを格付している格付機関は4社です。

ムーディーズ Baa2

スタンダード&プアーズ BBB+

格付投資情報センター(R&I)A

株式会社 日本格付研究所(JCR)A+

で各社ばらばらです。

ただ、世界の格付け大手は3社で米ムーディーズ、米スタンダード&プアーズ、イギリスのフィッチで、この3社の格付が事実上世界標準となっており、発行する際の金利を決める時もこの3社の格付を参照して決まります。

今回JCRのみが格付を付与しており、A-と言われると高く見えますが、恐らくムーディーズに頼むと2段階下のBa1となるのでこれは世界的には投資不適格、すなわちハイイールド債券に分類されます。

クーポン1.72%は事実上このBa1に準じて発行されているとみていいと思います。

なぜそう考えるかというと4月に発行の2025年4月満期のソフトバンク6年債が1.64%で決定されており、ソフトバンクの格付はBa1だからです

スタンダード&プアーズだとBBB-でかろうじて投資適格を維持できる水準かと想定されます。

なぜ、このような違いが出るかですが、これは私見ですが、格付機関の力の差によると考えられます。

格付機関は格付を付与する企業から手数料をもらっているため、力が弱いと悪いことは書きにくい現実があります

今回武田薬品がJCRを選んでA-と一見高い格付をハイブリッド債券に付与させたのは販売促進の意味合いがあるのでは?と思います。少しずるい気がします。

ムーディーズに頼むとBa1で販売上印象が悪いです。

しかし、金利水準は世界標準に合わせないといけない現実があるため1.72%と高くなってしまった訳です。

また、初回コールで償還されるというのはあくまで慣例であり、可能性は高いものの契約上は必ず償還されれるということではありません。

武田薬品は今までは財務内容が健全な企業で有名でしたが、シャイアーを460億ポンド(買収当時は約6.8兆円)で買収し、有利子負債が1兆円程度でムーディーズの格付がA2だったのが、買収後有利子負債5兆円超、ムーディーズは格付をBaa2と3段階下げられました。今後シャイアーが利益貢献しくれると格付けの改善もあり得ますが、ない場合は非常に経営が厳しくなります。

今回のハイブリッド債券がムーディーズからみると投資不適格になる可能性が高い債務であることも念頭に置いたほうが良いと思います。

格付機関がどこ?はかなり重要です。